平成十八年年七月三十一日、全国の宗務所長が宗務庁に緊急召集された。そこではいったい何が起こり、何が話し合われたのか、当日出席された方々の中から三人の方にインタビューし実態に迫った。
回答者 A宗務所長(北信越管区)
● 宗議会の報告書は自白調書?
「どんな内容の会だったのか」
A師 問題になっている多々良学園の事件をめぐって、宗議会がまとめた報告書を閲覧した。そのあと、顧問弁護士が、なぜその報告書を回収し一般に開示しないのかという理由を説明した。その後、各宗務所長が意見を述べあったのだが結局、内局の言うとおり仕方がないなという感じで終わった。
「なぜ一般に開示しないのか」
A師 これから債権者、とくに銀行が曹洞宗を相手に裁判を起こしたとき、この報告書があると曹洞宗に非常に不利になる。弁護士にいわせれば、一般の事件で言う自白調書のようなものだという。
「多々良学園からの報告書はすでに出ている。そうするとこちらが隠しても、多々良学園の報告で同じような事実関係が明らかになるのではないか」
A師 そのとおりで開示しなくても、すぐに分かる。変な話、デジカメで写してしまえば全部分かるし…。内局も言っていたが、今日聞いた話、見た資料を外にしゃべってはいけないということではなく、ただ物的証拠としての書類は残さないという話だった。
「そこまでするということは、隠さなければならないようなことをしてきたということか」
A師 病気で言えば末期的状況になるまで放っておいたことが問題だと乙川総務部長は言っていた。あの人は世田谷学園の理事長で、二十八億円の赤字を抱えているが、頭を下げて東京中の寺院を廻って改善に努めている。多々良学園では理事長も校長もそういう努力をまったしなかったという。
「多々良学園は独立した学校法人で、曹洞宗とは別組織だが、今回の移転の過程では宗務総長以下、内局の部長が多く関与したそうだが」
A師 それは報告書にも書いてあったが、多々良学園の理事会はほとんど宗務庁で行っていたし、席上、まず宗務総長が学園の理事長よりさきに挨拶をするのが当たり前になっていた。それから担当の部長、校長という順番で、もう天の声というか、すべては宗務庁の内局主導だった。
「事件の発端をつくったころの宗務総長は大竹さんですね」
A師 それは自明だが、報告書には書いてない。乙川総務部長は、時の総長や部長が誰だったのか書くべきであったのではないかと言っていたが。
「東京グランドホテルの莫大な赤字の場合もそうだったが、こうした状況に誰も責任を取ろうとしない体質が曹洞宗にはある。それに対して、宗費を出している一般の寺院は怒っている」
A師 今回の事件の責任者、担当者にはけじめをつけてもらわなければいけないし、内局者は三百万、事態を看過してきた宗会議員たちは一人百万とか、金銭的な損害弁償をしてもらわないといけないという所長さんもいた。それに対して全国一万一千カ寺の寺院が二十万円づつ出すのも仕方がないという人もいた。それにしても、なにしろ多々良の理事会を開くだけで一回百万円もの金を使っていたと報告書にある。それだけでも批判されるべきだし、そうしたこともすべて大竹さんの意を受けてやっていたことが報告書から読み取れる。
「曹洞宗がこれから負う賠償額はどれくらいになるのか」
A師 五億から二十億円という話もあるがはっきりしない。当時、多々良学園の理事長をして清成さんなどは、役務上、保証人の判を押していたために五億円の弁済を余儀なくされ、すでに支払ったそうだ。
「その清成さんが今、逆に曹洞宗を訴えている。ところで、現内局の責任についてはなにか出ていたか」
A師 それについては前の所長会議のときに、乙川総務部長が、責任を取って解散することは簡単で楽だが、それでは何の解決にもならないので、解散はしないと言っていた。
「そうなると、今度九月で自然解散となれば、現内局は何の責任も取らなかったということになる」
A師 問題は次の内局が多々良問題をどう引き継ぐかだ。今度は有道会の内局だから、当然この問題に幕引きをしたがるだろうが、それでは許されない。追及の手を緩めてはいけないと思う。
回答者 B宗務所長(九州管区)
● 選挙制度が今の曹洞宗の一番のガン
「会議の感想は」
B師 われわれにはもうどうしようもないという感じだ。曹洞宗系列の学校として、百二十七年という歴史を閲していた多々良学園を維持できる可能性はもはやない。
「今回の多々良学園の事態は曹洞宗門始まって以来の大不祥事だ。これに対して、関係した前内局、それを黙認した現内局、そして宗会議員たちは、全国の寺院にどう説明し納得させるつもりか」
B師 納得も何も、全国の末派寺院では細かい事情を何も知らないのが実情だ。
「今回の事件はそもそもどこに原因があるのか、どうしてこういう結果になったのか、それをはっきりさせる必要がある。うやむやというのが一番いけないのではないか」
B師 それはみんなが思っていることだ。この問題を早く解決して 未来のある曹洞宗を作らなくてはいけないとみな思っている。しかし、誰がどう責任をとるべきかというのは難しい問題だ。
「九月に宗会議員の改選があるようだが、議員に立候補する人は、この問題をどう考え、どう解決したいと思っているのか所信を表明するべきではないか」
B師 そう、マニフェストね。一般の政治家は何か不祥事があっても次の選挙で再選されたら、それはもう認められたというが、曹洞宗の議員がそれと同じことをしてしまったら、もう終わりだ。
「全国の情勢を聞いてみると、選挙になっても無風状態で、新人の議員が出てくるのはせいぜい六つくらいの選挙区で、ほとんどが再選されるというはなしだ」
B師 結局、両会派が共通の利益を見出そうとしてずっとやって来ているから、こういう無責任な制度になってしまった。そのあげく、今度の多々良学園のようなどうしようもない事態を引き起こしてしまった。今の選挙制度が曹洞宗にとって一番のガンなのかもしれない。わたしはそう思う。
回答者 千葉県 篠原鋭一宗務所長
● 多々良学園の問題は全寺院に連帯責任が!
「出席した所長さん方からはどんな意見が多く出たか」
篠原 歴史的にも長年続いた多々良学園を宗門関係の学校から離脱させることになってしまったことに、いったい誰が責任を取るのかということだ。この歴史的な汚点というものは、もちろんこういうものを惹起した当事者の責任もあるし、内局にも宗議会にもある。しかし、考えなくてはいけないのは、宗費を払っている全寺院にも連帯責任があるということだ。顧問弁護士から、債権者とくに銀行対策上、三年間、報告書の情報開示はしないという話があったが、宗費を払っている全国の寺院からすれば、宗費がどんな風に使われ、その結果どうして曹洞宗門にとってマイナスとなるような事態が生じたのか、詳しい情報を知りたいと思うのが当然だ。三年後などではなく、公開できるところは今すぐ公開する、あるいは段階的に公開するようにしてもらわないと納得がいかない。
「内局としては開示しない代わりに全国の宗務所長を集めて、報告書をざっと閲覧させ、それで説明責任は果たしたという、いわば通過儀礼的な効果をねらった召集だったわけだ」
篠原 そう受け取られても仕方がない。とにかく、報告書をざっと読んだだけでも、あちこち問題だらけだということが分かった。弁護士がこれは自白調書に近いものだというのもよく分かる。更に内局より告白的な発言があった。この報告書ですら、すでに弁護士の手によってマズイところは削除されているという。本当のナマの報告書ではないということだ。とりわけお盆直前の多忙な時に遠くから来た所長さんなんか、非常に不満を持って帰ったと思う。これでは地元で説明ができない。内局は、少なくとも報告書は持って帰ってよくよく読んでください、非は非として認めざるを得ない、というべきだった。それなのに、九月に行われる議員選挙に期待するというような発言が出る。
「その結果また同じようなメンバーが出てきたら、仕切り直しということになって、選挙が免罪符になってしまう。一般の寺院にとってはいろんな思いがあっても、それをどこにぶつけたらいいのかという問題がある。選挙法の改正をするには今の制度のなかで宗議会を通じてしかできない。そこらに問題のネックがあるのではないか」
篠原 とにかく今回は全宗務所長を集めて説明しました、というセレモニー的な会議で、議会制度を改革しなければならないなんていう突っ込んだ議論をする時間はないし、与えられなかった。
いずれにしてもこれでは革新的な動きを宗議会が起こすなんて期待できるわけがない。この問題を踏み台として二度とこういうことが起こらないように、ほんとうの強い組織を曹洞宗は作らなくてはいけない。今回の問題でもきちんとしたチェック機関があれば防ぐことができた。そうしたしっかりとした組織力を持った曹洞宗を、全寺院の連帯責任の上において構築しない限り、こうした問題はまた起こる。全国の寺院は宗費という名の暖簾料さえ払っていればそれでいいというのでは無責任だ。わたしはそう言いたい。