朗読から心の力を養う
春風のうた
茅野雅子
春が来そめた夕ぐれに
私は森をとび出して
小さいランプを持ちながら
星の火盞に火を点す
そよ。
春が来そめた夕ぐれに
私が森をうごかせば
まるいまあるい月がでる
月は私のお友達
そよ。そよ。
春が来そめた夕ぐれに
私が森で笛ふけば
甘く、かすかに、やわらかに
子供は床に寝にはいる
そよ。そよ。
そこで私は昨夜じゅう
月と二人で考えた
お伽話に似た夢を
子供の上にまきちらす
そよ。そよ。そよ。
出典「日本童謡集」与田準一編 岩波文庫
解説 小倉 玄照(成興寺住職) 加茂保育園園長・岡山県津山市
人間はもとよりこの世に存在するすべてのものは、地・水・火・風の四つの元素から構成されると仏教では考えて来ました。四大とか、四大種とか言います。からだの中で、地水火風のバランスが崩れると病気になります。禅宗では病むことを四大不調と言います。
一年間、本欄の担当を引き受けて、四大をテーマに名文を紹介して来ました。最後の今号は、風です。
作者・茅野雅子(1880―1946)は、早くから新詩社に入り、『明星』誌上に短歌を発表。与謝野晶子、山川登美子と共に歌集『恋衣』を刊行して歌人としての地位を確立しました。『明星』同人の茅野粛々の妻。この童謡は『金の船』に大正九年(1920)に発表されたものです。
文明が発達したこの頃は、風(空気)も人間が快適に感じられるようにコントロールしようとします。家庭でも職場でもエアコンの効いた居心地のよい生活空間が形成されています。大人も子どももその中で生活することが多くなって来ました。厳しい冬が過ぎていつの間にか春の風が「そよ」と吹き始めてもほとんど無関心。春の夕暮れに、感傷的な気分に浸ることがあるのかどうか。夜空の星を見たことがない子どもが珍しくないのですから、夜風の冷たさが身にしみることもないでしょう。
快適なエアコンの世界に生きることがはたして幸せかどうか。一度、春の夜風にふれて考えてみたいものです。