朗読から心の力を養う



   母の心

いつまでも
いつまでも
そんなにお世話になっておれないよ
早く家に帰らなけりゃなんないよ
チャンとアヤが心配してるよ

さて朝ご飯食べたっけか?
それとも昼ご飯だったかな?

家を出ては見たけれど
さてどっちに行ったらいいのやら
誰か教えて下さい 私の行くところ
山田と言うところです
坂道をてくてく上ったところです
誰か教えて下さい 私の行くところ
てくてく上る坂道はありませんか
ああ 今日も家に帰らないで日が暮れる
チャンとアヤが心配して待っているのに






解説 大分県・泉福寺 無着成恭

 この詩は、横戸喜平治という人の「今日もにこにこきよ子さん」という詩集から選んでみました。アルコール依存症の父と、アルツハイマーの母を、約十五年間介護したときの、そのときどきの詩を集めたものです。
 この詩集を、声を出して読んでもらいたいと思います。声を出してまわりの人々に聞かせて欲しいと思います。そうすればきっと、読んでいる本人はもちろんのこと、かたわらで聞いている人々も、心の中が温かくなり、しみじみと人間が好きになってくると思います。
 必ず、声に出して読んでください。
 目で文字づらを追って読んでいるときと、ゆっくりと、あまりいそがないで声に出して読むときでは、その作品の世界にひたっていく度合いが違うことに気がつくはずです。朗読のとき大切なことは、いそがずにそこに描かれている内容を、頭の中で映画でもつくるように読むことです。速くもない、遅くもない読み方が最高です。

 いつまでも
 いつまでも
 そんなにお世話になっておれないよ
 …………
 チャン(父親)とアヤ(母親)が心配して待っているのに

 アルツハイマーで、記憶を失った母親のコトバです。母親はすでにホトケさまなのだが、介護しているこの詩人もまた、母親のおかげでホトケさまにさせてもらっていることがわかります。
 声に出して読めば、ホトケの世界がそくそくと伝わってくる、そんな詩集です。