禅に惹かれた人々
私の安心(あんじん)は、いつも
ありがとうって祈ること

仙台市東秀院檀信徒 岩間泰子さん


菩提寺東秀院 白石浩住職と

母親やご主人がほとけさまとなって
見守っているに違いない


 2006年8月、宮城県仙台市にひとりの女性絵本作家が誕生した。彼女の名前は岩間泰子さん。洋服店を経営するオーナーでもある。
 「祈りってすごく力があるんですね。こういうことがしたいなぁと思うと、不思議と導かれるんです」と語る泰子さん。彼女は17年前に最良の伴侶を亡くして以来、ひと月も欠かすことなくご主人の月命日には永福山東秀院へお墓参りを。そして、毎日仏壇に手を合わせている。
 「祈るといっても、いつもありがとうって挨拶をしているんです」と泰子さん。素直に感謝の気持ちを表現できるようになったのは、17年間という月日のお陰だという。
 「亡くなってすぐは主人の妹に引きづられるように月命日の墓参りをしていたんです。何を祈るでもなく、花束を墓前に備え、線香をあげていました」。
 三年の月日が流れ、泰子さんの姿を見守っていた永福山東秀院の白石浩哉住職からこんな言葉を掛けられた。「お仕事が多忙な中、三回忌も済ませたことです。ご主人へお気持ちは通じています。ご無理なさらずに毎月墓参りしなくても良いですよ」と。
 その時、ハッとしたんです。義理で祈っていると思って申されたのかと。「多忙だなんで当たり前のことです。主人の妹が毎月墓参りして下さっているのに私が墓参りしないのは心苦しく思います。これからもよろしくお願いします」。
 住職の言葉で悟ったのだ。泰子さんにとっての安心(あんじん)は”祈ること”だということを。
 ご主人を亡くしてまもなく、大手予備校の売店の仕事を始めた泰子さん。人生初めてともいえる浪人という挫折を知った子供達の悩みや頑張っている姿に触れる。「主人が亡くなってすぐでしたが、悲嘆に暮れている暇なんてありませんでした。一人娘や周囲の方々が私を応援してくれましたし、とにかく学生さんのハートがとても良くって、本当に力をもらいました。彼らの悩みを聞いているうちに、自分の悩みが解決されました」。
 卒業生は大学生、社会人となり、予備校で働く泰子さんの所へよく遊びに来たそうだ。学生にとって、泰子さんはまさに心のガス抜きをしてくれるかけがえのない存在だったのだろう。
 そんな泰子さんに、不思議なことが起こるようになった。お祈りを始めてから亡くなったご主人や母親が夢枕に立つのだ。「仕事で疲れて眠ってしまった時には母が『大変だね〜』って。とても穏やかな顔で癒されました。主人は『大丈夫だよ、大丈夫だよ』って。一体、何が大丈夫なんだか分からないんですけれどね」と笑う。泰子さんが絵本作家になったエピソードも、実に神秘的な力を感じる。
 ここ仙台では(もちろん各地方にもあるだろう)自分の生まれ年の化身神を守り神として信仰する風習があり、泰子さんの守り神は文殊菩薩さまだという。彼女は二十年以上前から文殊菩薩さまを祀っている仙台市の鷹巣山文殊菩薩堂へ年に数回参拝し、数多くの紙芝居を奉納していた。この鷹巣山文殊菩薩堂、鎮守の森として有名だ。また、文殊菩薩様は卯年生まれの守本尊であり、伊達政宗も卯年生まれ。お堂の屋根には火伏せのうさぎが見守っていると、仙台市民に大変親しまれている。政宗公ゆかりの寺院の住職がお経をあげる仙台文殊講が開かれている。「素晴らしい紙芝居を是非絵本にしてみてはどうか?」と住職さんに提案を受ける。いざ絵本となるとなかなか筆がすすまない。
 今年6月、悲しい出来事が。飼っていたうさぎ・ミミが死んでしまったのだ。不思議なことに、今まで浮かばなかったストーリーがスラスラと浮かんでくるのだ。それはまるでミミが泰子さんの頭の中を元気に駆け回っているかのように。そして2006年8月。泰子さんは「うさこと文殊さま」という絵本を出版したのだ。文章はもちろん、絵も全部泰子さんが執筆した。「ミミちゃんから半分力をもらって書いたんです。文も絵も少しずつ足りないけど、味があっていいかなって。鷹巣山文殊菩薩堂の屋根にあるうさぎの像はお空を見上げないと気が付かないのです。多くの方々に文殊様のお力を頂けたらいいと思います。不思議なことに、私も自然と話が出てきたのですよ」。
 次々とまいた種から花が咲いている感じだと語る泰子さん。常に感謝の気持ちを忘れない泰子さんを、母親やご主人がほとけさまとなって見守っているに違いない。
「今日は主人の祥月命日。きっと応援してくれていると思います」と語る泰子さんの表情は、まるで文殊菩薩さまのように穏やかで優しい。

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