編集後記

 お仏壇やお墓がない家の子も多く、「ご先祖」への意識、「ご先祖に見守られている」という意識が薄いだけに、こちらの常識が通じにくくなっていることを感じる。
 昔から、「三つ子の魂百まで」といわれ、今号の対談者・西舘好子氏は「赤ちゃんといるときの母体が実はその子の生涯を決定してしまう。それが3歳までに確立すると立証されている」と言っておられる。
 お寺は昔から、人の一生のもっとも大事な時期に存在しつづけてきた。しかし、村社会の機能(地域コミニィティ)が失われるのと同時に、お寺もまたその機能を失いかけている。
 戦後、日本人の価値観は大きく変わった。まず第一に挙げられるのは経済至上主義になったことだろう。一昨年の東日本大震災は日本人の多くが共有していた、その価値観をひっくり返してくれたのではないか。
 もちろん、日本はグローバルな世界の一員である。その地位もまだまだ高いものがある。日本全体が簡単に変わることはなかろうが、仏教寺院として今後、仏教的価値観をもっと発信できるのではないかと思う。
 8月3日、4日とご法事があり、施主家で様々な話をしていると、震災後の日本人に向けて、そうした価値観を十分に伝えていくことが出来ると思った。
 できれば個人的にだけでなく、宗務庁、御本山、宗務所、各寺院がその価値観を共有し、大きな目標を設定し、組織的に発信していくことができればと思いを巡らす。
 しかし残念ながら、曹洞宗をリードしてくれるはずの宗議会議員の選挙の在り方、総長の選び方、宗務庁の運営など問題は山積みである。御本山の体制にしても時代を読んでの人事とはとても思えない。読めることは御本山の次の体制を考えてのことだろう。いずれにしても今後の曹洞宗をリードするシステムにはなっていない。
 この事に早く気付き抜本的に変えないといけないが誰がこの事に着手するのだろう。
 このような体制が今の曹洞宗の体質を作り、多々良問題やグランドホテル問題などを生みだし、すでに多額の損失を曹洞宗にもたらしているではないか。
 このままほっておけば、曹洞宗は世に役に立たない単なる小さな宗教集団でしかないのだ。
 『曹洞禅グラフ』127号(お正月号)の特集は諏訪中央病院の名誉院長・鎌田 實先生です。良いお話をお聞き出来ました。乞うご期待です。
 『仏教企画通信』34号は「仏式葬儀の意義」と更に仏式葬儀の本質に迫る内容を掲載予定です。

        藤木隆宣  合掌