編集後記

 十月一三日のNHKスペシャル「中国激動 さまよえる$l民のこころ」を見られた方は大勢おられたと思う。人気番組「八重の桜」に続いての番組であった。一三億の中国人の意識改革が進んでいるという内容で、その中で中心的役割を果たしていたのは「儒教」「キリスト教」だった。
 中国では一九六六‐七七年の文化大革命により、従来の儒教・仏教をはじめ宗教的思想が全否定され、今の中国の人々のこころの面をリードする思想は失われたままできた。そして、拝金主義がはびこる現在の生き方に疑問がわき、人としての生き方を求め始めたというのである。
 映像では、儒教やキリスト教の現地の指導者が親孝行を説き、多くの人々がその教えに感動して、自らの生き方や考え方を反省し涙を流していた。その数一億人と報じていた。私は、その思想の中に仏教が入っておらず、驚き落胆した。ナレーションで「老師」という言葉がでてきたので、いよいよ仏教の登場かと一瞬思ったが、儒教の指導者のことであった。今の中国の仏教事情に通じているわけではないが、仏教は今の中国をリードする力がないのかもしれない。
 言うまでもなく、日本の仏教は中国経由で伝わったのである。わが曹洞宗も道元禅師が中国の如浄禅師と出会われなかったら、正伝の仏法は伝わらなかった。日本の寺院が今あるのは、徳川幕府時代に宗門人別帳がその役割を担い、檀家制度がうまれた、よきにつけ悪しきにつけ、そのおかげだと思う。
 私は五〇年後の日本の宗教事情を想像してみた。日本の人口は今の半分、六千万人。八万ヶ寺のお寺は二万ヶ寺になるだろう。今私たちが区分けしている、既成仏教、新興仏教、新仏教などの分け方は影を薄め、キリスト教、イスラム教が参入し、それぞれ影響力拡大に動いていることだろう。墓地の効果はなくなり、もっぱら住職の力一つで信者は移動することになる。
 これは三〇年後のことかもしれない。檀家制度は現存するが、檀信徒(国民)の望む方向をしっかり見つめ、今からその姿勢で臨まないと、すべてが後手にまわる。このときには包括法人曹洞宗の規模は小さくなり、むろん東京グランドホテルはなくなる。
 さて、現実に目を向けよう。宗議会が曹洞宗をリードできる体質にするには、宗議会議員の選び方から改正しなければならない。曹洞宗が対峙しなければならないのは、檀信徒を含めた一般の人々である。有道会、総和会ではない。以前から言われているが、地方寺院の慶弔会などは所長が務めればよい。宗議会議員が地方を代表する必要は全くなく、もっぱら曹洞宗の将来を考えられる人を選出しなければならないのだ。
 必要なのは、名誉職から実務職への変身である。毎年変わり映えのしない運営では困る。その選出の試案として、一管区三名×六管区で一八名、それに寺族代表一〜二名、檀信徒代表一〜二名でもよいのではないか。この選出方法であれば、この中から総長が選ばれてもよいと考える。
 宗務庁の運営も一変しなければならない。包括法人としての必要な機能は何かを議論し、維持しなければならない。総務(庶務)、研究、研修、出版、梅花本部としての機能などは残し、布教、教化機能はすべて宗務所に移し、各地で特色を生かした布教教化活動をすればよい。このような運営体制の変革は、やればできる。曹洞宗の改革はこれくらいはしないといけない。他にも案はいろいろあると思うので議論していきたいものだ。

        藤木隆宣  合掌