教育再生のキーワードいじめ問題を考える

悲惨で異常な"いじめ"の事実を学校側に提示し解決した例

 人の命ははかなく、そして尊いもの……。しかし、「いじめ」を苦にした自殺が相次いでいる。最近では小中学生によるいじめ自殺者が急増しているのが現状だ。もしも我が子が「いじめ」の対象になっていたら、あなたは我が子を救うことができますか?
 「いじめは暴行障害、名誉毀損、器物破損、集団暴行。間違いなく犯罪行為ですよ」と語るのは、我が子の「いじめ」に真正面から向き合い、そしていじめ問題から子供を救った父親Y氏である。
 彼の息子Aくんは間もなく中学を卒業する。中学1年の時、彼はいじめに遭った。入学当時の身長は140cmほど。小柄だが、普通のどこにでもいる少年である。同じ部活でいじめられている友人をかばったのだ。しかし、そのことで矛先が彼に向いてしまった。それから2学期までの間、彼は部活でもクラスでも、壮絶ないじめの被害に遭う。しばらくの間、いじめに遭っている事実を両親は全く気がつかなかった。Aくんは毎日、弱音ひとつ吐かず、1日も休むことなく部活の朝練習と学校に通っていたからだ。しかし、ペンケースや部活の道具などが次々と頻繁に壊れ、時には学校から帰るなり「屈むのが痛い」と居間で倒れこむように寝込む姿に、母親K子さんは違和感を感じた。「うちの子はいじめられているのかもしれない」。
 実はAくんの通う中学校は以前事件があり、全国区でマスコミに取り上げられた学校だった。いたずらにしては度がすぎるとK子さんはすぐに担任、部活顧問の先生に相談したが、いじめている子を「遊び半分でやっている事、その程度の事はよくある事、注意します」という感覚に隔たりがあった。学校へ不信感を持つK子さんは「私立へ転校させましょう。どこか他のチームに所属させましょう」と主張した。相談に乗ってもらった知人には「このままじゃ息子が殺されるよ」とまで言われた。
 しかし、果たしてそれが息子のためになるのだろうか……。「逃げる」のではなく、「救う」方法はないものか? Y氏は先生を味方につけて、一刻も早くいじめ問題を解決する策を考えた。「人は気持ちよくないと動いてくれない。どうやって先生に仲間意識を持ってもらうか?」
 冷静沈着を努め、まず息子からこれまで受けたいじめの詳細を聞き、それを書き取った。誰に何をどうされたのか。いじめ問題解決には、証拠が必要だからだ。
 洋服の上からでは見えない背中を殴られたり、女生徒の前でズボンをおろされたり、「ウザい、汚い、死ね」と罵倒されたり。しかしAくんは「無視されることが一番嫌」と呟いたそうだ。いじめていた子供の中には、小さい頃から家族ぐるみで付き合いのある子の名前があり、Y氏は愕然とした。
 息子から聞き出した内容を手書きで報告書として書き記した。事実のみ、冷静に文章を書くことだけを思って。ときには感情的になってしまい、K子さんにも読んでもらい何度も書き直した。
 そして、校長、教頭、学年主任、担任、生活指導、部活顧問、知人の先生の7人へ、各々の名前を記した7通の報告書を「息子の言い分はこうですが、事実を調べてください」と提出した。Y氏からの報告書を読み、校長そして生活指導の先生は涙を流して謝罪をしてくれたそうだ。「Aくんは卒業するまで我々が守りますから」。
 事前に、Y氏は1年生全体の公開授業に足を運び、全クラスを見て回った。公開授業に足を運んだY氏を見た、Aくんのいじめを指揮するXは「あの野郎、泣き入れやがったな」とニヤリと笑いながら仲間に話していたという。
 「今の子供は大人をなめています。大人の論理が必要なんです。しかし、驚きました。あまりにも生徒の授業態度が悪いんですよ」。
 学校側はAくんのいじめ解決に全力で取り組んだ。まず全校集会を開き、次に学年集会。そしてクラスで話し合いをした後、いじめた子供を残して反省文を書かせた。
 その後、Aくんは毎日笑顔で部活の朝練習、学校へと通う。そしてこの春、高校入学を心待ちにしている。両親の愛情が詰め込まれた、冷静沈着に徹した手書きの報告書が彼をいじめから救ったのである。

(取材・正富よう倖)


いじめに遭った
中学一年生(当時)の父親の手記


 集団で一人をいじめるという行為は人間として卑劣であり、もし立場が逆転したら、どんなに辛い事であるか。毎日学校へ送り出す家族は、悲嘆にくれ、「ただいま」と帰って来る普通の行為がもっとも遠くの旅路から、無事生還したように思える安堵と口惜しさが交錯する気持ちを理解してもらえるだろうか。息子に「お前、何が一番嫌だった」と聞いたら、「無視される事」と言った。目の前で何を言っても"幻聴・幻覚"とまるで存在していないかのように言われた。痛々しく感じた。
 将来、社会に出て家族を持った時、思春期の思い出がいじめであるという事は、いじめた方も悲しい事だ。今の学校は、小さな池の中で生贄を求めて共食いをしているように思える。いじめの問題を先生の責任問題に転嫁させても?いじめ?はなくならない。
(父親Y)


『児童・青年期の心理臨床』安田生命事業団発行より

 いじめは条件次第では当事者の死に直結してしまうということです。いじめには悲惨で、根深い、異常な人間関係が存在します。いじめ―いじめられの関係は、単純には支配―被支配の人間関係です。人間の本能でる支配欲により支配されている異常な二者関係ですから、支配する側のやり方がエスカレートしてくるとショックを受けてPTSD(心的外傷後ストレス傷害)になったり自殺を選ぶしかなくなるのです。