仏教ボランティア
絵本を届ける運動で子供を救う

曹洞宗婦人会会長・SVA理事
埼玉県能仁寺寺庭婦人
     萩野頼子さん


 現在、世界中で様々なボランティア活動が行われている。その中に、絵本を届ける運動を行う社団法人シャンティ国際ボランティア会(SVA)がある。
 難民キャンプの子供達に絵を描かせたところ、10人中10人全員が、首が無かったり、血を流している人、戦う人の絵を描いた。そこで、子供達の笑顔を取り戻すため、教育的支援が必要だと立ち上がった。現在、タイ、ラオス、カンボジア、ミャンマー(ビルマ)難民キャンプ、アフガニスタンにおいて、図書館活動を中心とした教育、文化の支援活動に取り組んでいる。中でも、カンボジアやラオスなどでは学校、教師、教材が慢性的に不足している。そこで、色彩豊かで美しい日本の絵本に翻訳シールを貼り、現地の子供達に送り届けようと取り組んでいるのが、絵本を届ける運動だ。
 SVAが発足したその頃、曹洞宗婦人会会長・萩野頼子さんは曹洞宗婦人会のあり方を熟考していた。「曹洞宗の教えをどうしたら世の中に生かすことが出来るのか? 女性として、母の立場から子供達の健全育成の役に立てることはないか?」
 そして、SVA創立の中心人物であった仏教者・故有馬実成氏と出会う。有馬氏の活動に共鳴した萩野さんはSVAの理事に就任。現在、曹洞宗婦人会では萩野さんが中心となり、学校建設や絵本を届ける運動など、カンボジアなどの教育支援を精力的に行っている。中でも、曹洞宗埼玉県第2宗務所婦人会では『絵本を届ける運動』が、年1回開催される総会の後に行う恒例行事になっている。
 そこで今回、埼玉県飯能市の能仁寺で開催する平成19年度曹洞宗埼玉県第2宗務所婦人会総会・研修会へ足を運んだ。メンバーは、婦人会に所属している能仁寺・蓮光寺・寶泉寺・萬久院・長松寺・浄心寺・鳳林寺・法心寺・大蓮寺・泉福寺・正覚寺の住職の奥様を中心に総勢80名だ。
 総会が終わり、婦人会のメンバーは翻訳シールをはさみで切り、日本語の文字の上へ翻訳シールを貼る作業の真っ最中だ。「娘に買った本だわ、懐かしい!」「孫に読んであげた本なの」など絵本の思い出を語りながら、みなさん楽しそうに絵本へ翻訳シールを貼っている。絵本の最後のページへ、自分の名前を現地語で記入する「お名前シール」を貼ると、みなさん感激もひとしおだ。
 翻訳シールを貼った絵本は、子供ひとりに1冊渡す訳でない。1冊の本が、図書館や核になる学校から近隣の学校へと渡される。そして、読み聞かせ方の指導を受けた先生が子供達へ読み聞かせるのだ。つまり、1冊の絵本を約400人の子供達が読んでいるのだ。また、字を読むことが出来ない母親達も楽しみにしている。絵本は修復しても修復してもすぐボロボロになってしまうそうだ。
 「自分が作った本が400人の子供達に楽しんでもらえるなんて幸せだわ!」と、どの方も母性愛に溢れた優しい表情だったのがとても印象的であった。
 萩野さんは実際に何度もカンボジアへと足を運び、子供達の笑顔を見ている。そして、絵本を届ける活動への思いを語ってくれた。「カンボジア難民キャンプで、ある女の子がこう言ったのです。「お菓子よりも絵本が好き。お菓子は食べるとなくなっちゃうけど、絵本は何度でも読めるもの」。食料が不足しがちな難民キャンプで、お菓子はとても貴重品です。それでも、目をキラキラさせて絵本に夢中になる難民キャンプの子供達の姿を見て、衣料や食料、医療支援ではなく、絵本を子供達に読んでもらう支援を行って、本当に良かったと思っています」。
 この素晴らしい活動が、もっと地域社会に広がっていけたらどんなに素晴らしいことだろう。
 「地域の公立小学校へ、婦人会と一緒に絵本を届ける運動をしませんかと働きかけをしたのですが……。特定宗教との係わり合いは教育上禁止しているとの理由で断られてしまったのです」と残念そうに話す萩野さん。
 絵本を届ける運動をきっかけに、檀家以外の方でも気軽にお寺へ足を運んだり、地域社会との交流がもっと密になることが出来ればと切に願う。

(取材・まさとみ☆ようこ)


日本の絵本に翻訳シールを貼るボランティアの人々