読者相談
曹洞禅グラフ秋号を読みました。わたしは、瀬戸内寂聴さんの著作『愛と救いの観音経』を読んで、仏教の信者になりたいと思いました。仏教のことは、まだよく知らない者です。実家も婚家も曹洞宗です。在家信者として、何を毎日行えば良いのでしょうか。仏壇と観音様の写真を拝んでいますが、わたしは病弱な体で、度々寝込んでしまいます。そのようなわたしでも、できることがあるでしょうか。(Takeda)
回答 駒澤大学教授 池田魯參
和顔愛語の布施行でいつか自分も観音さまに
深く穏やかな腹式呼吸が命のバロメータ
瀬戸内寂聴さんの本を手にされ、あらためて仏教の素晴らしさに気づかされた。これからは仏教徒として生きていきたいとのご決意の程、大変嬉しく存じました。あなたさまがこれまで過ごして来られた日々の積徳がこういう好縁に恵まれる結果になったのですから、これほどめでたいことはありません。
観音さまの写真を飾り、お宅のお仏壇に拝んでおられるとのこと、こういう善い事はこれからもずっと続けていってください。
ご存知のように、観音さまは私たちに最も近いところにおられ親身になって力をかしてくださる衆生縁のとても強い仏さまです。まずはお仏壇にお水を換え、できたらお仏飯も供えて、お灯明をつけ、お線香を立てたから、南無帰依仏、南無帰依法、南無帰依僧と、仏・法・僧の三宝を敬いますとお唱えしながら三回合掌礼拝し、その後で時間があれば二、三分間、正座するといいでしょう。そして観音さまのお経の『般若心経』か、『観音経』を読誦されるといいでしょう。「ぎゃーてーぎゃーてー」と読み終わる頃、あるいは「ねんぴーかんのんりき」と繰り返し読み進めるうちに、とても清々しい気持ちになります。
お経の読み方は、自分の一番いい声で、できるだけ息を切らないようにして朗々と読みます。慣れてくると自然に息が続くようになり、それにしたがって吸う息も深くなって、坐禅のときのような腹式呼吸が身についてきます。
どれほどなのか、病弱なお体ということですので、正座がきついようでしたら椅子に座って背筋を延ばし顎を引き、長く息を吐くたびに一つ二つと数え、十まで数えたらまた一から始めるようにして腹式呼吸の訓練をされるといいでしょう。深く穏やかな呼吸が命のバロメーターなのです。呼吸が乱れていたら、心は落ち着きようがありません。
周りの人に優しくなれる生き方
いうまでもなくお経には仏さまが示された教えが書かれているのですから、お経を読むといっても、私が仏さまにお経を読んであげているという考え方はおかしいですね。本当はその逆で、このお経を仏さまの方から頂いているわけです。確かにお経を読むのは私に違いありませんが、今こうしてお経さんを仏さまから頂戴し、仏さまの教えを頂かせてもらいますというふうに気持ちを込めますと、お経の読み方は一段と違ってまいります。
こういうお経の読み方が身になじんできますと、お経に書かれている教えがスーッと私の中に入って来て、仏さまの命が私の命と一つになり、拝まれる仏さまと拝む私の区別がなくなり、文字通り無我無心の深々としたひとときを体感することができます。
こういう善い習慣が日常茶飯のことになりますと、周りの人にも優しくなれ、自分のいい思いを少しでも多くの人に体験して欲しいという前向きな生き方が生まれます。そうしますとお顔の表情まで和やかになり、「お茶でもいかがですか」「どうぞ一服めしあがって」と親切に対応できます。「どうもありがとう」「ごちそうさまでした」「もうこれで充分です」というふうに会話もはずみます。心のこもった言葉にふれるとどんな人も幸せな気持ちになれます。これが和顔愛語の布施行です。私たち自身がいつの間にか観音さまになっているのです。この程度のことなら今すぐにでもできそうですね。仏教は特別なことは教えません。悪いことをするな、善いことをせよといって、どこまでも日々の生活に根ざす人の生き方を教えます。