広めたい! 美しい調べ
心に染み入る仏教讃歌
主宰・太田紀子さん
仏教讃歌コーラスグループ「マーヤの会」 十一月八日 東京宗務庁・ホールで歌う
「私、目立ちたがりなところがあって、こうして仏様に見守られながら皆様の前で歌うの、大好きなんです」と、壇上で笑いを受けながら話す太田紀子さん。三重県の大蓮寺の寺族で、2005年、仏教讃歌のコーラスグループ「マーヤの会」を結成し、今では地元のみならず日本各地で仏教讃歌を歌いながら講演活動をしている。
仏教讃歌とは明治以降、西洋音楽を学び、仏教に関して素養のある作詞家や作曲家、山田耕筰、信時潔、弘田龍太郎、中田喜直たちによって作られた音楽。
この日は東京都寺族会主催「秋の研修会」でのステージ。「仏教讃歌とあゆむ」と題して、太田さんの寺族としての生活、子育て、仏教讃歌との出会い、他宗教、他宗派の音楽やこれからの新しい活動などを語った後、解説を入れながら八曲を歌うミニコンサートが行われ、美しい歌声に会場は大きな拍手に包まれた。
三年前、本紙で紹介したが、太田さんは三重県四日市生まれ。大学で声楽を学び、音楽教師を経て大蓮寺住職太田秀穂師と結婚。ピアノ教室やコーラスグループの指導をしながら、子育てが一段落した頃、宗務庁から送られてきた一枚の仏教讃歌のCDに心を打たれた。
今までの、どの歌より美しく、清らかな旋律と仏教の教えを優しく示す歌詞。「これを皆に聞いて欲しい。私が歌うことで布教ができる」と瞬間に思ったという。同時に、先代や現住職が駒澤大学児童教育部に所属していたことから、前から寺に置いてある仏教讃歌の楽譜やテープを思い出した。よく聴いてみると、涙で楽譜が読めなくなることもたびたびだった。
こんなすばらしい歌を皆で歌おうと、県内の寺族の人に声をかけ、コーラスグループ「マーヤの会」を作った。発足当時は八人。発声から指導し、斉唱用に書かれた楽譜を二部合唱用にアレンジしながら、皆で練習を重ね、三重県の梅花大会で披露することになった。人前で緊張しながらステージに立ち、高らかに歌った。檀家さんたちからは「うちの寺のおくさんが歌っている。きれいな歌やね」と、大きな拍手を耳に「こんなスポットライトが当たることになるなんて、今まで考えてもいなかった」と寺族メンバーの感激の声。
そんなある日、仏教讃歌のひとつ「みほとけは」の曲を練習していると、これを聞いた友人が涙を流した。「今の曲を毎日聞いていたい。亡くなった孫の四十九日にも聞かせたいので、テープに録音してもらえますか」。
この出来事が太田さんにCD発売を決意させた。「もっとたくさんの人に聴いてもらいたい。一般の人に仏教の灯をともすきっかけになり、癒される仏教讃歌を知ってもらうためにも…」。
2007年夏、レパートリーの中から八曲をレコーディングしたマーヤの会初の手作りCD「みほとけは」が発売された。専門誌のみならず地元の新聞や雑誌、ラジオにも取り上げられ大きな反響を呼んだ。山形、京都、滋賀など各地から出演依頼が入り、「布教活動に行ってきます」と、メンバーともに寺を出て演奏旅行に行くことも。今では二千枚近く販売されている。
仏教讃歌ユニット「蓮」(れん)結成 二枚目のCDも
また、昨年四月には他宗派の寺族や大学の後輩とで、仏教讃歌ユニット「蓮(れん)」を結成した。二枚目のCD「いのちまいにちあたらしい」を製作し発売となった。
研修会に参加した寺族の若い女性は「ステキでした。特に最初の「ささぐみあかし」は賛美歌のような感じで心に残ります。ご詠歌も良いのですが、この歌は子どもにも歌ってあげたいと思いました」と、声をはずませた。
「曹洞宗では寺族は剃髪して尼僧にならないと読経できません。お掃除や草取り、お茶出しが、寺族としての私の仕事と思っておりましたが、仏教讃歌を通じて人の心が癒せて、少しでも人の歩む道を照らしていくことができれば、布教に関わる仕事の一翼を担えると思っております」、と太田さん。
仏の教えを優しく歌う仏教讃歌。広く多くの人の心に響いてくれることを願いたい。
▼大蓮寺
三重県度会郡大紀町崎262 電話 0598-74-1044
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