平成二十四年 敬頌新嬉



曹洞宗管長
大本山總持寺貫首
江川 辰三


 平成二十四年の新しい門出を祝うとともに、皆さまの万福多幸を衷心よりご祈念申し上げます。
 昨年は大本山總持寺ご移転百年のさまざまな記念事業にご協力いただき、無事に諸行事を円成させていただきましたことを、深く感謝致します。
 次々に上山されました記念参拝団の方々、そして、参拝団のお世話をされた諸老師方にお逢いする度に、小衲の杖言葉である「我逢人」の深い悦びを何度も噛み締めました。ありがたい仏縁、ありがたい巡り逢いでありました。
 さて、今年は干支の壬辰「辰歳」に当たります。小衲の生まれは昭和三年辰歳ありますから、いわゆる「年男」ということになります。年男とは何ぞやと辞書を繰ってみますと、「その干支に当たる男。新年に門松を立て若水を汲み、歳徳棚の飾り付けなどをし、節分には豆まきをする」と記してありました。いわば、新しい年のめでたい行事などを、皆の先頭に立って行う男というわけです。管長・貫首としての責務と共に、年男として皆さまの先頭に立って歩みを進めねばならない任務の重大さを、改めて、噛み締めております。
 また、本年は私たちの日本が新しく生まれ変わる第一歩の年でもあります。
 昨年の東日本大震災やそれに伴う原子力発電所放射能漏れ、そして度々襲って来た台風や大雨の被害などから立ち直るために、さまざまな面で復興・再建が行われます。
 そのとき、復興・再建の基本理念として、決して忘れてはならないことは、修証義に説かれてある「発願利生」の精神であります。高祖大師は「己れ未だ度らざる前に一切衆生を度さんと発願し営むなり」と教えられ、その具体的な実践を「布施・愛語・利行・同事」とお示しになっておられます。
 皆さまにおかれましては、この「発願利生」の精神を、復興・再建のみならず、あらゆる面で活用され、こころ豊かな美しい日本を作り上げる基本理念にしていただきたいと、心からお願いし、迎春の言葉と致します。


 壽康

曹洞宗
大本山永平寺貫首
福山 諦法

 古来正月には門戸に一対の松を立てる習いがありました。松樹千年の翠に、家門の繁栄を託したのでしょう。やがてこれに竹と梅を添えて新年を迎えました。また注連縄を張り替えたり、鏡餅を供え屠蘇仕度をしたものです。所によっては、三宝に白米を盛り、その上に昆布・かち栗・熨鮑・伊勢海老・橙等をのせ、「蓬莱飾」を作ります。縁起物を神仏に捧げて、年の始めの祈りをするのです。
 中国の神仙思想によると、渤海湾の遥か彼方の東海に島が在り、そこには蓬莱山が聳え、不死の仙人が住んでいると伝えられます。かつて秦の始皇帝は、これを信じ、不老不死の仙薬を得ようとしました。方術士徐市(福)は命を受けて船出をしました。しかし莫大な費用を要したのにもかかわらず、徐市は蓬莱山を捜しあてることなく、姿を昧ましたのです。始皇帝はやがて巡遊の旅の途中、平原津で病没しました。人はみな長壽を希い、幸福を求めます。そのために努力をし、働きもします。それでも命に長短があり、禍福はあざなえる縄の如くと言えるでしょう。
 この無常迅速・生死事大の中で、私たちは正直な生活をし、願わくは、身体健やかに心は康らかに、命は壽しく生きたいと思います。「壽康」の典拠は、詩経の「爾をして壽にして康からしむ」に見ることができます。今年こそ自然の運行が順調でありますよう、亦、人災の無きことを願って止みません。生きとし生ける者、全てのいのちが尊いという事を再認識すべき時代と考えます。世界の康寧と人々の福壽長久を祈祷して新年の挨拶と致します。