一回限りの人生を有意義なものにしたいと
大学(大学院)に挑戦する人々を教える

青山IGC学院 学院長 工藤美知尋さん

工藤 美知尋( くどう・みちひろ)

青山IGC学院主宰。政治学博士(国際関係論、外交史専攻)
1947 年、山形・長井市生まれ。日本大学法学部政治経済学科卒業。
1972 年、日本大学大学院政治学研究科修士課程修了。オーストリア・ウィーン大学留学。東海大学大学院政治学研究科博士課程単位取得。東海大学より政治学博士号を取得。博士論文は「日本海軍 太平洋戦争開戦原因論」。
日本大学法学部助手、日本大学法学部専任講師の後、1992 年、社会人入試・大学院入試のための本格的な予備校、青山IGC 学院を主宰。
社会人入試・大学院入試予備校の先駆者として多くの著作を手がける。
また、大日本帝国海軍の研究者として『日本海軍と太平洋戦争』(上・下)、『東条英機暗殺計画』『稜線 劇物語 山本五十六』、『残照 劇物語 井上成美』『日本海軍の歴史がよくわかる本』など多数ある。



 「東日本大震災で、ある意味で日本人の価値観が変わり、いままでの生き方を見直すきっかけになったと思います」。と、話すのは青山IGC学院学院長の工藤美知尋さん。
 二十年前に社会人大学・大学院入試の本格的な予備校を設立し、三千五百名もの大学・大学院への入学者を輩出している。「IGC」はInternational Genuine Culture「真の国際文化」。
 工藤さんは国内の大学、大学院卒業後、オーストリアのウイーン大学(外交史専攻)に留学中、多国籍のたくさんの人が生涯教育、リカレント教育(再学習)を志すのを目の当たりにした。十年後には、日本も同じ現象になると確信し、帰国後、博士号を取得、専任講師を経て同学院を設立した。
 「それまでの大学院への志望者は大学の教師になるための研究者、また少数の就職したくない、いわばモラトリアム人間のような人が多かったのですが、設立当時、MBAなどの経営学や臨床心理など、実務的な科目で大学院にいくという潮流が高まった時でした。それまで日本人は金銭を至上価値としたもの、すべてが金銭で換算できる生き方、人よりもたくさんの給料、退職金、年金を得る、そういう意味で勉強というものを金銭的な投資と同じように考え、目指して大学に入った方が多かったのだろうと思います。それはある意味での学歴社会を形成したのかと思います。
 ところが、そういう生き方だけではこれからは成就できない、まっとうできない、戦後の日本人が忘れ去っていた真の生き方が分かったのだろうと思います。日本は幸いにも世界第二の富裕国。物はあっても、心の豊かさや精神性の豊かさは足りないと感じているのです」。

戦後の日本人が忘れ去っていた真の生き方を指導する

 現在生徒数は五十名、三十代から六十代半ばまでの人が通っている。三十代は実務的なスキルアップ、MBAなどの経営学などいわゆるビジネスエリートを目指す人が多く、五十代以上は今までずっと自分ができなかった夢を実現したい、一回限りの自分の人生を、もう一度燃焼し、有意義なものにしたいと目的意識を持ち、自分を高めることに積極的な人が多いという。社会人大学、大学院受験の主な科目はほとんど小論文と英語。
 学院の必修科目「小論文」は、工藤学院長の講義。「私の人生観」「真の国際人とは」「リーダーの条件」「なぜ子どもはキレるのか」などの広く現実を見つめるテーマが多く、論文内容は確かな視点で深い考察をし、論理的に表現することを求められる。
 この小論文によっても自己の人間性を高め、より強い意識と意欲を持ち、モチベーションを上げた受講者は多い。
 「今や情報は豊富に仕入れることができますが、本質を見定めるのは、やはり自分が考えなくてはいけません。その点、皆さん始めはおしなべて不得意ですが、社説などの小論文を要約し、毎日論述訓練することによって力をつけられます。本学院に来る方は、精神性の高い方が多く、意義ある人生にしたい、社会貢献したいなど、極めて前向きです。平成の松下村塾を目指しています。人に教えることは喜びで、私も共に学ぶことでもあります」。
 工藤さんは大日本帝国海軍などの研究者として数々の著書を出版しているが、観世流能楽師師範や書家、茶人など、様ざまな顔を持つ。中でも能については、留学当時から真の国際人として自分が確固としたものを持つために、伝統的な日本の文化を体現しようと、四十歳のとき始めたことだった。
 「能は古い言葉で謡われ、わかりづらいといわれますが、それを乗り越えると音楽劇なので、すごく簡単なのです。自分が汗をかいて掴み取った面白さやこつ、ただ書物から概念を学習するのとわけが違います。やってみて初めて良さがわかります。能がほかの演劇よりずっと優れているのは、人間の本質が描かれているからです」。
 一番好きな「井筒」では、さまざまな経験を積んで、苦労や喜び、悲しみを感じ、年を重ねるなかで、自分の生き方もこうしてまっとうしてみたいと登場人物に自分を重ねながら演じる、その中で日本人の生き方の美学を強く感じるという工藤さん。

日本人の生き方の美学を教える

 「能の魅力は言い尽くせませんが、日本の美学、『幽玄』のひとつはロマンティシズム、奥ゆかしさというものですね。また、自己というものを見つめるということでは禅にも通じるものがあります。そして茶道でも長唄のテーマでも花鳥風月、春夏秋冬の中での自然との共生で、それは日本人の喜び、幸せでもあります。伝統的な日本文化を体現することで、同時に外国の文化を同じ目線で比較でき、また、享受できました。しかし、もっと深めなければいけません。私にとっての修行ですから」。
 本当の豊かな生き方を求めて学ぼうとする人を支え、導いてきた工藤美知尋さん。その誠実なまなざしは常に志ある人に注がれている。

(取材・文 石原恵子)


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