ののさま ありがとう!
デイサービスセンター
「ビハーラ天白」にあふれる笑顔
絵手紙
高齢者に入浴サービスや食事、体を動かすレクリエーションなどを日帰りで提供する通所介護事業所(通称デイサービスセンター)は、家にこもって社会的に孤立しがちなお年寄りの体や心のケアをしてくれる施設として全国に点在し、国の介護保険をベースとした高齢者社会福祉の一環として重要な役割をはたしている。
名古屋市天白区にある「デイサービスセンター・ビハーラ天白」はその一つで、五年前に設立され、お年寄りたちから好評を得ている。
私が訪れたのは昨年十二月、あいにくの雨の日だったが、室内には広く丸いテーブルを囲んで「絵手紙」をつくるお年寄りの姿があった。テーブルの中央にはモミジやイチョウの葉、柿や栗などが置かれていて、指導役のスタッフが明るい声で丁寧に描き方、作リ方を説明している。ほかのスタッフはテーブルのお年寄り一人ひとりに語りかけながら作業をサポートする。
落ち葉を手にとまどいながらも少しずつ進める人、葉の形をなぞりながら隣の人とお話しながら描く人、果物を見ながら黙々と作業を進める男性など、それぞれ思い思いの絵手紙に仕上げていく。最後に色鉛筆で彩色し、文字を入れる。でき上がったときの満足そうな笑顔はみな晴れやかだ。
絵手紙を描くお年寄り
今日の利用者は六十代から九十一歳までの二十九人。午前中はお風呂に入り、昼食。午後は絵手紙教室のあと、お茶の時間。そして電子ピアノの伴奏で歌を合唱。今月お誕生日を迎える女性が、自分の好きな演歌を元気に歌い、皆の拍手を受けたあと、成道会にちなんで、特別に「ののさまに」の歌をなごやかに歌う場面もあった。その後、帰り支度をして何台かの車に分かれて乗り、センターを後にした。
ノーと言わない所長
雨の中、車椅子のお年寄りを手際よく車に乗せ、自ら送迎車を運転するセンター所長の太田恭史さん(48)。
「私は父方、母方の祖父、祖母が四人いる家庭で育ちました。ですから、おじいさん、おばあさんのお世話をすることには慣れていたので違和感なく介護の仕事に入りました。最初は大手の介護施設で何年か働きましたが、仕事の内容の粗さ、サービス意識の希薄さに疑問を感じていました。それで小さくても自分の思うサービスが最大限に反映でき、お年寄りに心身ともに快適な時間を楽しんでもらえるような施設を実現したかったのです」とその思いを語る。
利用者から寄せられるさまざまな難しい要望に応えようと、黙々と工夫を凝らす太田さんに、いつしか「ノーと言わない所長」というニックネームがついた。自分の寝る時間を惜しんででもサービス向上に奔走する太田さんの態度に、いつしかスタッフも心打たれ、どんな場合にも最善を尽くして利用者のために行動しようという熱い気持ちをはぐくんだという。
開所五年目を迎える同センターは、春のお花見や歌謡ショー、所長お手製の竹細工で流しそうめんを食べる夏祭り、秋の紅葉狩り、運動会、音楽、体操、アロマセラピー、フラワーアレンジメントの教室などなど、メニューが盛りだくさん。利用者はもちろん、その家族からも感謝の言葉が贈られている。
太田所長と太田秀子さん
お年寄りが必要とするもの
センター内でひときわ明るい声を響かせ、お年寄りの世話に引きも切らず動き回るのは所長夫人の太田秀子さん。このセンターの設立母体である社会福祉法人「広徳会」を包括する曹洞宗地蔵寺の檀家の家に生まれ、子供のころから寺の「日曜学校」に通い、永平寺の子供坐禅教室にも何度も参加した経験を持つ。おとなになり、寺が運営する「地蔵寺保育園」でも働いたが、その後勤めた介護施設で恭史さんと出会い、彼の理想的な介護を実現したいという夢に共感し結婚した。子育てや親の世話、家事をこなしながら、具体的な施設の企画書づくり、資金の協力願いなどを二人ですすめた。
そんなおり、かねて何かにつけて相談に行っていた地蔵寺の神野哲州住職を訪ねた。それが、「デイサービスセンター・ビハーラ天白」の誕生へとつながった。地蔵寺では社会福祉法人「広徳会」によって保育園を運営しているが、もう一つの事業として「ビハーラ天白」を設立しようということになったのである。ちなみにビハーラとはサンスクリット語で、僧院とか人々の安住・休息の場所を意味する。
「地域のかたがたが希望していることをやるのが、今の寺の役目のひとつだと思っています。先代の父は、戦後のベビーブームに対応して保育園を建てました。そして、今、多くのお年寄りが必要とするものが、この施設だったのです。その運営の鍵を握るのは、直接お世話をする職員のかたがたです。そのかなめに、太田ご夫妻のような情熱と理想にあふれた信頼できる人材がいてくださるというのは、すばらしいご縁です」と、「広徳会」の理事長も兼ねる神野住職は爽やかに話す。
「ビハーラ天白」を、全幅の信任を得て託された太田所長ご夫妻。「今日も一日、見守ってください」、「お風呂が無事に終わりました」、「今日も安全に送迎ができました。ありがとうございました」と、施設内にある「ののさま」と呼ぶお地蔵様に声をかけ、そのご加護を信じて、お年寄りのお世話に邁進する毎日がつづいていく。
(取材・高月 香)
ののさまの前で帰りにお経を唱えるお年寄りの姿がある