禅に惹かれた人びと
お袈裟を縫う会 福田会


ひと針ひと針が仏さま

木村豊子さん(東京都)


 お袈裟の縫い方を教える木村さん

 十二月八日、午前二時。振鈴の音が響く。引き締まった空気の中、坐禅堂に坐る檀信徒老若男女十八人の姿があった。
 武蔵野の面影を境内に残す観音院(来馬正行住職)での臘八摂心の最終日。そのなかで、和服姿に絡子をつけ、落ち着いた立居振舞の女性に目が止まる。木村豊子さん(73)だ。
 木村さんは十七年前、このお寺を訪れた。
 「亡き母がこのお寺でお袈裟を縫う会(福田会)に参加していたことから、ご挨拶を兼ね伺った時、来馬住職との話の中で自然にお袈裟を縫う気持ちになりました」と話す。
 お袈裟はお釈迦さまから伝わる仏教徒の証しで、僧侶が最も大切にする持ち物の一つ。道元禅師も自らお縫いになり、『正法眼蔵』「袈裟功徳」を書かれている。
 観音院では元東京女子大学教授で国文学者の故水野弥穂子先生と村石妙光尼の指導で行われ、二十八年経った今でも二十人近くの参加者がある。
 「『在家の人天なれども、袈裟を受持することは、大乗最極の秘訣なり』と道元禅師さまは記されました。在家の人も自ら縫った清浄なお袈裟を頂戴受持し、お袈裟に身も心も包まれ一体となって坐禅する『衣法一如』で、大変尊いことです」と来馬住職。

 来馬住職

 会では坐禅をした後、袈裟功徳の法話を聞き、行茶の後、お袈裟を縫い始める。初心者は五条(絡子)から始める。布を丁寧に裁ち、中央の福田部分を作るために、小さな布を割かつ截せつ(はぎ合わせ)、2、3ミリの却きゃく刺し (返し縫い)で進めていく。芥子粒ほどの針目になるよう心がけながら縫っていく。
 五条のお袈裟を縫い終えるとお袈裟を入れる袋を縫う。大切なお袈裟を護持し、決して足の踏むところへ直接置かないようにするためだ。参加者の中には七条、小三衣などのお袈裟を縫う人も多い。
 「先生、この縫い方で大丈夫でしょうか」と聞く人に、木村さんはそばに寄り添い、丁寧に教え、手直しもする。次会まで家でも縫いたい人には、進め方の段取りをいっしょに考える。

 坐禅をする木村さん(中央)観音院坐禅堂で

 親子二代で長年熱心にお袈裟を縫い続けてきた木村さん、いつのまにか皆に教える立場になり、坐禅会や摂心でも台所を預かる「典座さん」と愛称で呼ばれ頼りにされている。
 学生の頃から始めた茶道で、茶室の軸に書かれた文字、特に禅語に興味を持ち、各種の講義を聞くこともあったが、お袈裟を縫う会をきっかけに、『正法眼蔵』、『正法眼蔵随聞記』、『普勧坐禅儀』、『永平広録』、『永平家訓』、『宝鏡三昧吹唱』など、観音院のほかにも都内のお寺で行われる講義に積極的に参加している。

 1月の会で井上道隆老師の七条糞雑衣を拝見

 「難しいと思っていた経典ですが、わかり易く教えていただけるので、その教えを自分におきかえながら、聞いていると、とてもためになります。お袈裟はひと針ひと針が仏さまですから、真心をこめて縫っています。家でも夢中になれる時間です。参加の皆さんが、年一回の受衣式に向けて励まれるようお手伝いしていきたいです」と木村さんは穏やかに話していた。

     (文・石原恵子)


 七条のお袈裟をつけた木村さん