釜田隆文 曹洞宗宗務総長に聞く
二十一世紀型の寺院をつくるために
釜田隆文
昭和15年三重県生まれ。
昭和40年から47年まで大本山永平寺安居、三重県松阪市養泉寺住職。
平成14年から宗議会議員、平成26年10月から宗務総長。
曹洞宗宗務庁とは
今から八百年ほど前の鎌倉時代、道元禅師が正伝の仏法を中国から日本に伝えられ、その後、瑩山禅師が全国に広め曹洞宗の基を築かれました。本宗では、このお二方を両祖と申し上げ、ご本尊のお釈迦さまとともに一仏両祖として仰いでおります。道元禅師は福井県に永平寺を開かれ、瑩山禅師は石川県に總持寺(現在は横浜市鶴見区に移転)を開かれた。曹洞宗ではこの両大本山を有しているわけです。
では曹洞宗の宗務庁とはどんなところかといいますと、全国約一万五千の寺院を包括するのが宗教法人曹洞宗で、その事務所を曹洞宗宗務庁といいます。僧侶約二万五千人、そして多くの檀信徒の皆さまを教化し、本宗の目的を達成するための業務および事業を行っている。たとえるならば、曹洞宗寺院の役場、役所のような行政機関であり、僧侶の資格を与え、住職の任命の申請手続きについて辞令交付などを行います。これには全国の寺院から宗費という負担金を納めていただき、運営されているのです。
宗務庁には宗務執行の役員がいて、その代表者が宗務総長となります。その下に部長職の者が七名、これと宗務総長をあわせ内局と呼びます。内局は曹洞宗管長猊下の辞令によって任命されるもので、曹洞宗の宗務や事務などを公正に執行する機関といえます。この宗務執行機関のほかに、秩序の厳正さを保持するための議決機関として宗議会、また監正機関として審事院があり、この三つの機関がそれぞれ曹洞宗の宗制に従って運営されています。
寺は生きる力を与える場所に
昨今、社会構造が大きく変化し、また若者世代の都市部流出などにより地方の過疎化、高齢化が急速に進んでいるといわれます。核家族化、地域コミュニティーの崩壊などによって無縁社会化、孤独死などの問題も報じられるところです。こうした現状を一教団の力で解決に導くのはもとより困難ではありますが、私どもでは現代社会の諸問題に対する教化施策に取り組み、また曹洞宗の将来を構築するため、日夜努力を重ねているところであります。
ここで重要なのは、私ども一人ひとりの僧侶が、他人事としてではなく、わが身にふりかかる問題として捉え慎重に対峙していかなければならないということです。一般の信者にとってみれば、檀家として寺院に属しているという認識よりも、この僧侶だったら教えを請いたいという、そういう方々が増えていくのではないでしょうか。一寺院の住職として、孤独感を抱えながら生きにくさを感じておられる方々に接するとき、私ども僧侶の存在が少しでも役に立てたらという思いを強く感じています。
寺院は古くから地域社会の中でコミュニティーの中心として機能してきました。講や寄合いに代表されるように、人々が自然に集まり、思いと行いを共にする求心力が寺院にはあったのです。さまざまな悩みや苦しみを抱え、生きにくさを感じながら、誰にも相談できずにいる人が大勢います。それに反し、何でも安心して気軽に相談できる場所はきわめて少ないのが実状です。もともと寺院はそうした人々にとって、生きる力を与えてくれる場所であったはずです。
お仏壇のご本尊曹洞宗三尊仏
新しいネットワーク作りを目指す寺院活動
曹洞宗では、これまで「人びとのこころに向き合うために」と題した研修会を開催し、延べ一万人以上の僧侶、寺族の方々が受講しております。そうした活動を通じ、寺院が檀家さんや地域社会の人々にとって身近で、何でも相談できる居心地のよい場所になれるよう取り組みを続けてまいります。そして、この取り組みは僧侶や寺族の力だけでできることではありません。さまざまな問題の解決にあたっては、医療関係者や弁護士などの専門家をはじめ多くの方々の助けを必要とする場合があります。
幸いなことに、寺院はそうした方々とのネットワークを作りやすい立場にあります。専門的な知識や経験を持つ方、また親身に関わってくれる行政職員や民生委員の方など、檀家さん、信者さんの中には頼りになる人が少なからずおられます。そうした方々と手を取り合って共に活動できる場として機能していく、それが二十一世紀型の寺院の一つの大きな役割と考えています。
寺族というのはやはり欠かすことのできない存在ですから、宗務庁では寺族通信教育を開講して、仏教に関する研修会を開催したり、さらに仏教の認識を深めるためのテキストを作ったり、またテーマを与えてリポートを提出させたり、いうならば寺族のための教育機関を作り上げています。それを基に『寺族必携』という本を刊行して、住職を補佐する寺族の立場を理解されるよう啓蒙に努めております。
本来、僧侶をつくるという場所といえば僧堂しかありません。僧侶としての資質を高めるための教育をしっかりやりたい、そのためには僧堂の改革をすることが喫緊の課題であり、それをすることにより曹洞宗の発展に繋がると確信致しております。僧侶を一人前に育てるには多くの知識と経験と、それを伝える師の存在が不可欠です。仏弟子となる上での心構え、また基本的な作法を雛僧の時期に身につけ、宗旨や教義など専門的な知識を大学などで学び、僧堂で坐禅を中心とした修行生活を送る、これによって行と学とが一体となった僧侶が育つのですが、近年この教育システムが崩れつつあるのではないか。今一度、指導する側の役割分担を明確にして整理する必要があると思います。
確かな知識と経験、道心と人柄を備えた僧侶を育てるために、きちんとした仏教や禅の知識を、どこで誰が教育するのか。修行道場では何を学ばせ、実践させるのか。ということをもう一度確認し、また見直す必要があると考えます。そのために、僧堂教育の改革、住職になるための認定制度の見直しなども視野に入れ、行政が取り組むべき責任を果たしていきたい、これを四年間でやりたいと思っています。