ころころと ころがる心どうするか

大藪正哉

大藪正哉(おおやぶ まさや)
1932 年、東京生まれ。
1959年、東京教育大学大学院修了。
筑波大学助教授を経て1977年、筑波大学教授、1995年、退官。
駒澤女子大学講師、東京医科歯科大学講師、曹洞宗審事院委員などを務め、現在、東京天徳院住職、筑波大学名誉教授。


 私どもは、誰もがいろいろな思いを持っています。この思いを「心」と呼んでいます。十人十色ですが、心はころころところがっています。
 さわやかな心もあれば、あわてる心もあります。苦しむ心もあれば、楽しい心もあります。さまざまな心がありますが、私の勝手な思いでは、

── さわやかな心 ──

 でいたいものと思っておりますが、なかなか思い通りにはいかないことが多いようです。

── 下手の考え休むに似たり ──

 という言葉があります。私の考えも下手の考えではありますが、自分としては、さわやかな心になるために、かなり役に立っているように思いますので、自分としては内心忸じく怩じたる思いはありますが、お役に立つこともあるかも知れないと思い、自分の愚かさをさらすことになりますが、申し上げてみたいと思います。それはどんな時でも

── あわてないこと ──

 を考えるようにしています。
 その具体的な方法は

── ゆっくりと呼吸する ──

 ことにしております。ゆっくりと息を吐き出し、ゆっくりと息を吸いこむことにしています。ゆっくりと呼吸をすることによって、

── あわてない ──

 という思いが湧き上がってくるようです。
 ヒントになったのは

── 親が死んでも食休み ──

 という言葉です。

── あわてない
    あわてない ──

 と繰り返し、繰り返し、自分に言いきかせることにしております。
 あわててころんで骨を折ったら、人生は

── 元も子もない ──

 ということになるかも知れません。そこで、あわてないために留意することは、

── ゆとりを持って、事を始める ──

 ということで、そのためには

── 早寝早起き ──

 を実行した方がよいようです。早朝の三十分ほどの歩くトレーニングが

── さわやなか心 ──

 のために、最上の方法であると思います。この歩くトレーニングをするときに、是非気を付けていただきたいことは

── 顎ひいて、背筋のばして歩きます

 ということです。これを実行してみると、

── 視野が広くなって、ころぶ危険が
   かなり少なくなります ──

 私どもが、ほとけさまにお参りをするとき、合掌して、ほとけさまのお顔をしっかりと拝見しております。いろいろなほとけさまがおられます。

── お釈迦さま、お観音さま、阿弥陀さま、
    お地蔵さま、お不動さま ──

 どのほとけさまも

── 顎が出ていません ──

 これは、ほとけさまが

── 顎を出してはいけません ──

 と教えて下さってるのだと思います。

── 顎ひいて、背筋のばして歩きます

 を実践していただきたいと思います。この実践によって

── 楽しい気分 ──

 が湧き上がってきます。そして

── さわやかな心 ──

 を実感することができます。


 挿絵/長谷川葉月