平成二十八年 迎春



曹洞宗管長
大本山總持寺貫首
江川辰三


福慧

 平成二十八年(二〇一六)の新春を迎え、謹んで皆さまのご多幸をお祈り申し上げます。
 旧年中は、皆さまからの多大なるご支援、ご協力により、大本山總持寺二祖峨が 山韶碩禅師六百五十回大遠忌を無事にお勤めすることができました。
 ここに、心より厚く御礼申し上げます。
 「相承大いなる足音が聞こえますか──」
 という今般の大遠忌の理念は、引続き、八年後の御開山太祖瑩山紹瑾禅師七百回大遠忌に至るまで、常に拠りどころとすべき一脈の本流であります。どうか、玩味していただくと共に、変わらぬご芳情お力添えをお願い申し上げます。
 さて、念頭に際し、「福慧(ふくえ)」と示しました。「自分や周りに福をもたらす智慧」とは、一体どのような生き方によって得られるのでしょうか。
 自己本位の見方にだけこだわる生き方では、その目指すところから遠く掛け離れています。
 無数のご縁によって生かされている自らを、感謝の念をもって振り返り、他を尊重して、その上で自己をよく顧みて行動することが大切です。
 皆さまにとって、本年がすばらしい一年であることを、重ねてお祈りいたします。

      えがわ・しんざん 独住第二十五世




曹洞宗
大本山永平寺貫首
福山諦法

安寧

 新年明けまして、おめでとうございます。
 年が改まると心地も風景も、ひときわ清澄に感じます。皆様は夫々に正月の行事を、敬虔におつとめのことと思います。お互いにこの平安を持続いたしましょう。此処永平寺は峰高く渓深く水がゆたかです。玲瓏の滝となり、坐堂の軒下には水の響きが絶えません。やがて永平寺川は志比の田野を潤して、

 元日やされば野川の水の音

 一句のように流れつぎます。水は方円の器に随い他に随い、融通無碍です。大梅法常禅師は、会下の僧衆に「流れに随って行くがよい。時に随い縁に随い精進し、自在の働きを作す可し」と示されました。行雲流水は修行僧の面目です。上善の水の如くに生きたいと願います。執われぬ随流去の教えに習い、誰もが寧らかな日々を暮せますように祈念して、「安寧(あんねい)」を今年の言葉と致します。

      ふくやま・たいほう 永平寺七十九世