現代宗門人の書


 楢崎通元 書


吉岡博道(よしおか・はくどう)
1942 年9 月27 日、静岡県生まれ、駒澤大学仏教学部卒、永平寺僧堂研究科修了。
現在静岡県藤枝市文化財保護審議会会長、禅文化・洞上墨蹟研究会会長、正泉寺東堂。


 現在の宗門人で代表的な書を二本、紹介します。
 一本は楢崎通元(ならざきつうげん)老師です。四国の瑞應寺(ずいおうじ)僧堂(新居浜市)の堂長さんです。宗門の数ある修行道場(僧堂)の一つ、瑞應寺は常時、雲水が二十名前後、安居しています。瑞應寺は歴代住職よく書を嗜み、高田道見(たかだどうけん)、松浦百英(まつうらひゃくえい)、楢崎一光(ならざきいっこう)老師と風雅筆痕(ふうがひっこん)に親しむ家風が続いています。
 書は「破沙盆(はさぼん)」です。全紙に書かれた大字です。三文字が跳躍していて、秘めた力に敬服するばかりです。気力充実の書です。十年前に書かれたものです。破沙盆、破れた盆は使い道がありません。値段もつけられません。そこから意味をかえて値のつけようのない、絶対のもの、それは悟り、解脱とも言いますが、最高至上の道です。このような禅語は他にもあります。「破草鞋(はそうあい)」「破木杓(はもくしゃく)」「欠瓦(かんが)」です。
 もう一つは大乗寺(だいじょうじ)(金沢市)の東隆眞(あずまりゅうしん)老師です。大乗寺も宗門の僧堂です。ここも常に雲水が詰めています。古来より「規矩(きく)大乗」とよばれ、現在は金沢市民の開かれた道場として、現代に対応した教化を行っています。「語尽山雲海月の情(かたりつくすさんうんかいげつのじょう)」と屏風に書かれています。碧巖録(へきがんろく)第五十三則に出てきます。ただ、原典は「話尽山雲海月情」です。東老師は「語尽」と書かれました。久しぶりに会った親友同志が、腹をわって、お互いの心情を吐露し合う。読者諸君もこういう体験があると思います。名利(みょうり)を離れた洒脱(しゃだつ)な境地、一言ですべてを話し尽くすことです。
 東老師の書は龍が水を呼び、虎が山に棲むような勢い、縦横無尽、自由濶達なものを感じます。
 今回は現代宗門のお二方を紹介しました。

(前者は正泉寺蔵、後者は松江洞光寺蔵)

 東鱆チ 書