新潟県中越地震
活躍する曹洞宗の青年僧たち

炊き出しの給仕に人々が並ぶ
(避難所・長岡市栖吉小学校)

臨機応変のボランティア青年層
携帯電話でニーズに対応する

 新潟県には、数多くの寺院がある。曹洞宗の寺院だけで、およそ二百四十カ寺。二〇〇四年十月に新潟県を襲った中越地震では、そのうちの半数、百二十カ寺を越す寺院が被害を受けた。
 しかし、宗派の持つネットワークは、災害に立ち向かっていく大きな力を持っている。現地の寺院から現場の状況、被害の規模などを伝えられたSVA(シャンティ国際ボランティア会)、さらに新潟曹洞宗青年会は、震災被害に対して、すばやく行動を開始した。
 曹洞宗現地対策本部は、一般のボランティアセンターと同じく、長岡市に設置された。対策本部では、ボランティアセンターと連絡を密に取り、情報を武器にして災害に立ち向かう。ボランティア活動の新しい形は、携帯電話だ。対策本部でも、有線だけではなく、個人の持つ複数の携帯電話が活躍していた。
 特に被害の大きかった小千谷市や長岡市では、都市ガスは機能せず、断水も続いていた。避難所だけではなく、自宅に暮らす人々も、食事は差し入れの弁当やカップラーメンなど、調理のいらないものに限られていた。生活に欠かせない衣・食・住のうち、とりわけ食事の重要性は大きい。十分な食事がとれなければ、復興へ挑む気力もわきあがってこない。曹洞宗の若きボランティア僧たちは、この最も大切な「食」を確保するべく、各所で炊き出しの活動に従事していた。
 センターから送られてくる情報は、対策本部から各所へ、全国曹洞宗青年会のボランティアスタッフのもとに送られてくる。こちらの避難所では○○人分、あちらの避難所では△△人分と、ニーズに応じて炊き出しの分量が求められる。しかし、被災地での情報は口コミを中心として伝わるため、あらかじめ伝達された人数と、実際の数では当然のように誤差が生じる。話を聞きつけて食事を求めてくる人もいて、必要な食事の量が変化すれば、炊き出しもそれによって対応を迫られていた。それでも、ボランティア僧たちは、携帯電話を片手に、臨機応変に動き回っていた。
 数に限りのあるナベを回し、ガスボンベを工面し、時には人数分の食管(運搬用の深鍋)を車に積んで、不足した避難所へと急行した。携帯電話とカーナビによる誘導は、現今のボランティア活動には欠かせない。臨機応変に走り回る青年僧たちは、新しい形のボランティアを体現していた。
 「地縁があったからこそ、すばやく行動することができたんです」、現場で活躍する青年僧は誇らしげに語った。ナベ料理を配膳されて、避難所に暮らす人の口からは感謝の言葉がもれた。「あたたかい食事はありがたいわあ。あったまります」。そうした言葉を聞くときが、ニーズに応えるため、時間と戦うように走り回ったボランティア僧たちの勝利の瞬間だ。


被害を受けた寺院・倒壊した墓地
繋がる助けあいのネットワーク


 ボランティアの僧侶たちが走り回るなか、一方で、寺院もまた相当の被害を受けていた。大きな揺れのあった南北方向に建った寺院は、特に被害が大きかった。 十日町市の智泉寺は、本堂の基礎となる土台がずれて、支柱も折れた。土蔵は崩れ、指定文化財の山門は斜めに傾いだ。
 川西町の長福寺でも壁が剥落し、柱だけが剥き出しになっていた。同町の長安寺でも、本堂の壁はすべて被害を受けていた。落下した銅燈の一部は、床板に刺さって抜けなくなった。十日町市の真浄院では、庫裏や山門が被害を受けたほか、墓石も六割が倒壊した。将棋倒しに倒れた位牌は、落下して割れたものも多かった。

両本山からも雲水が駆けつけている
(十日町市・智泉寺)



 身の回りのことが一段落して、墓地が心配になって駆けつけた檀家もあった。倒壊した墓石には、とりあえずの処置としてビニールシートをかけた。倒れてそのままにはしておけないので、と檀家に頼まれて、住職は壊れたお墓にお経をあげた。
 そのほかにも、ボランティア活動や、地域住民の拠り所となって相談を聞くなど、寺院の住職に求められることは多い。周囲への活動に忙しければ、必然的に、お寺のことは後回しとなる。そこで活躍したのは、今度は、両大本山からやって来た若い雲水たちだった。
 永平寺、總持寺の両大本山から駆けつけた雲水たちは、被災した寺院の要請を受けて忙しく動き回っていた。「住職は、みなさんのために出かけて、自分のところまで手が回りません」と、雲水の一人は言った。「こんなときだから、お寺のことは後回しです。それは、もちろん当たり前のことです。取り残されたお寺の復興は、私たちが手伝います」。
 被災した人々を、一般のボランティアが支える。休日を中心に活動するボランティアの合間を、平日の僧侶たちが支え、地元の住職たちが支える。さらにその寺院を、若い雲水たちが助け、支え合う。そうしたつながりも、すばやく正確な情報の伝達と、曹洞宗の広遠な地縁があってこそだ。二十一世紀のボランティアの形は、新旧のネットワークが複合したハイブリッドなものとなっている。


近隣から鍋を持参する地元住民
(小千谷市)