禅に惹かれた人々
毎朝40分の坐禅が私の原点
―天涯孤独だった私が今、 お世話になったご恩をお返ししているの―
サンフランシスコジャズシアター 『Yoshis』オーナー 秋葉好江さん
世界的に有名なジャズシアター『Yoshis』のオーナーである秋葉好江さん。実は彼女、いくつもの顔を持っている。即興ダンスを踊る芸術家、表千家の茶道の先生、坐禅活動。そして、曹洞宗北米開教総監・秋葉玄吾師の奥様でもあるのだ。
「毎朝40分、坐禅をして自分自身を見つめ直すの」と語る好江さん。まさに禅が生活の一部となっている恆Tに魅せられた女性揩ネのである。そんな彼女と禅との出会いは、好江さんがカリフォルニア大学バークレー校へ留学した時のこと。本格的にダンスとアートの勉強がしたいと単身でアメリカに渡り、スカラーシップをもらって働きながら大学へと通う彼女を待っていたのは「文化の違い」であった。
「アメリカ人は自我の形成がしっかりしていて本当に強い。日本人はアメリカ人の中にいると吹っ飛ばされそうになってしまうの。踊りを踊っていると痛感したわ。自分をもっとしっかり鍛えなきゃって」。
そこで好江さんはまず、剣道を始めた。そんなある日、大学側が学生のために開催する月2回の授業でゲスト講師として招かれたアラン・ワッツ氏から禅仏教の講義を受けることに。1960年代のアメリカで禅仏教ブームの火付け役となった人物である彼の話に、大変感銘を受けた好江さん。その日以来、禅仏教にのめりこんでいった。
「踊りでは”自分を知る”ことが一番魅力的。人の目を気にして人と共和して生きていく日本人らしさって、踊りにはマイナス。どうにか自分を壊したかったの。そんな時に禅仏教と出合ったの。今に生きる自分をすべて出す。踊りと禅仏教はかなり共通性があった。坐禅をすることで、踊りで自分をより表現できるようになれたわ。私にとって坐禅とは、自分を見つめる時間なの」。
そう語る好江さん。彼女の強い信念は幼少の頃に培われていたのだ。戦災孤児で5歳の時に母親を肺病で亡くしてからは天涯孤独の身に。
「母は病院へ行くときにすぐに戻ってくると言ったけど、もう帰ってこない……。私はひとりなんだって本能的に感じたの。33歳の若さで亡くなった母に私は生かしてもらった。強く生きる責任があるの」。
頼る人もいない、全てを自分ひとりで行わなければならない環境で感性が研ぎ澄まされ、他人のウソや悪事が直感で分かるように。そんな好江さんの唯一のガス抜きが踊りだったのだ。
単身渡米した彼女が「踊りだけじゃ食べていけないから」と、学生時代の仲間と資金をかき集めて、全て手作りで始めた小さなお店。「自分もミュージシャンと踊って楽しみたいじゃない! 自分達がある程度生活できるお金があれば十分」という経営。それが全米のナンバーワン・ジャズ・シアター『Yoshis』へ。
「若いときに苦労ではなく、経験をたくさんした。自分自身のトレーニングだと思ってね。だから今、人に対しての思いやり、理解が自然とできるの。いろんな経験をするべきよ」。
好江さんの右、秋葉玄吾師
また、ご主人との出会いを「彼はお坊さん。ワタシは仏教の道に。共にお釈迦様に仕えている身。そもそもの発端はお店の一角に坐禅堂を設け、その開単式にお呼びしたのが玄吾師であった。出会うべくして出会ったのね」と語る好江さんを見て、運命の赤い糸は存在するのだと実感した。
最後に夢を教えてもらった。「ひとりで生きてきて、いろんな人に助けられた。今、そのご恩をお返ししているの。人のために教えて人を育て、人を幸せにしたいわ」。
(取材・まさとみ☆ようこ)
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