花まつり
四月八日はお釈迦さまの誕生日


 お釈迦さまは生まれたときに、七歩進んで、右手で天を、左手で地を指さした。このとき、お釈迦さまが語ったとされる言葉は、次のようなものだ。 「天上天下唯我独尊」―人は誰でも、この世にひとりきり、ひとつだけのいのちを持って生まれてくる。すべてのいのちは尊い。 これを聞いた天の竜が感激して、甘露の雨を降らした、と伝えられている。花祭りは、このお釈迦さま誕生の話を再現した行事だ。飾られる花御堂はルンビニー園を、甘茶は甘露の雨をあらわしている。


池袋サンシャインシティでの花まつり法要

 四月五日、東京池袋のサンシャインシティ・アルパ噴水前広場で、豊島区仏教会・全日本仏教婦人連盟主催の花まつりフェスティバルが開催された。
 まずは、大正大学混声合唱団によるコーラスが、お釈迦さまの誕生日をはなやかに歌いあげる。普段、お葬式と結びつけて考えられがちな仏教のイメージが、花祭りのときはガラリと雰囲気を変える。装飾も明るく派手に、司会の声も春にふさわしく弾むように響く。
 イベント最大の見せ場が、きらびやかに着飾った子どもたちの稚児行列だ。付き添いの親御さんたちも、ここぞとばかりにカメラを向ける。子どもたちは、花祭りという特別の日に、みんなの代表となって誕生仏(お釈迦さまの像)に甘茶をかける。両脇に並ぶ僧侶たちが花びらを散らす下で、真剣な面持ちで柄杓を握っていた。
「すべてのいのちは生きてるよ、いのちは尊い。それだけでいいと思います」。司会のいずみ侏子さんが、花祭りのメッセージを、そんな言葉で締めくくっていた。

サンシャインシティーでの稚児行列

 お釈迦さまの誕生日は、四月八日。サンシャインシティのイベントは先駆けて開催されたが、寺院の多くは、八日に花祭りをお祝いする。
 中野区の曹洞宗保善寺の保善寺幼稚園では、四月八日は入園式。一九五〇年の開園以来、毎年、入園式とあわせて花祭りを行っている。入園式が一通り終わって、子どもたちが飾り付けられた花御堂に集まってきた。競うように柄杓を手にとって、誕生仏に甘茶を注いでいた。
 お寺でも花御堂を飾っておまつりしてはいるが、やはり開放された場所という点では入園式が一番いい、と理事長の上村映雄師は語っていた。
「子どもたちに難しい理屈を言っても、なかなか分かりません。花祭りでお釈迦さまのお誕生日をお祝いして、同時に、いのちの大切さを学べればいいですよね」
 誕生日をお祝いする――その分かりやすさが花祭りのいいところだ、と言う。
「誕生日が嬉しいというのは、みんな同じじゃないですか。お釈迦さまがルンビニーの花の中でお生まれになった。それをみんなでお祝いする。分かりやすいですよね。こういうイベントを通して、大きくなってから思い出してくれればいいんです」
 華やかで楽しいイメージの誕生日。確かに、子どもたちが共感しやすい、いのちを考えるのに最適な一日かもしれない。
 それでも、お釈迦さまの誕生日は、まだまだ一般には知られていない。キリストの生誕祭であるクリスマスに比べてみれば、その差は一目瞭然だ。サンシャインシティでの花祭りでも、通りがかった学生が驚いていた。「こんなところでお葬式やってるの?」という声があがっていた。
 そのあたりのことを上村師にたずねてみると、次のような答えが返ってきた。
「花祭りは宗教行事だからと、公共の場では敬遠されるということがありました。それで仏教の側は、花祭りは季節の風物詩だ、と言いました。春はいい季節だから、花祭りはぴったりですよね。もっとデパートやホテルに働きかければ、どこでも花祭りをやって、お客様にも喜んでもらえるんじゃないかな」
 保善寺では、五月の連休明けまで花御堂を飾り続ける。子どもたちは毎日通ってきて、誕生仏に甘茶を注いで手を合わせる。先生方からいのちのお話を聞いたりもする。いのちの尊さ、すばらしさに触れるきっかけとして、花祭りがもっと身近な行事になればいい――上村師の言葉にも、サンシャインシティのイベントと同じようなメッセージが込められていた。

保善寺幼稚園での花まつり

保善寺幼稚園の上村映雄園長