国際テロの時代・・・
脱皮を迫られる日本仏教



 お話 大韓仏教曹溪宗 曹溪山松廣寺 菩成禅師

 聞き手 荒木正昭(全国曹洞宗青年会顧問)

 日韓両国はこれまで近くて遠い国といわれてきましたが、昨今ようやく文化交流の機運が高まってきました。仏教界においても同様です。日本と韓国では仏教のあり方に大きな違いがあります。まず、どの点が異なるのかを知ることによって、共通点を見出すこともできます。韓国を訪れた荒木正昭師(韓国曹渓宗大本山松廣寺での修行体験と交流団長)が菩成禅師に率直な質問をしてみました。

檀家制度のない韓国仏教

荒木 日本では江戸時代に檀家制度というものができて、今日まで檀家の護持によってお寺は守られてきました。それに対して韓国ではどのように護持されて来たのでしょうか。

菩成 韓国のお寺は、基本的には信者さんたちからのお布施によって維持されています。曹溪宗では、お坊さんはみな独身で結婚はしませんから、私有財産というものがありません。いただいたお布施はすべてオープンにされていて、お寺の護持、修行、布教のために純粋に使われます。ですから、信者さんたちから信頼されるのです。
 わたしはこの松廣寺に三十年以上住んでいますが、経済的に不便を感じたことは一度もありません。たとえば大切な仏教の本を出版したいと思えば、信者の方々に相談すれば必要な額だけ寄進してくださる。いわゆる法供養ですね。われわれ出家者は、修行さえきちんとしていれば、経済的に困ることは何もないんです。
 もちろん、信者の方々の信頼は、その寺の住職や責任者の修行力によって大きく左右されますから、まず、指導者が率先して修行に励むということが重要です。本山の住職であってもなにか特権があるわけではなくて、ふつうの修行僧たちをサポートする役割にすぎません。

家族を持たない純粋な出家仏教

荒木 日本では建前は出家仏教ですが、ほとんどの僧が結婚しています。その点について、どう思われますか。

菩成 曹洞宗の開祖の道元禅師は、日本の仏教を代表される方だと思いますが、その道元禅師は家族を持たれたでしょうか? もちろん、お釈迦さまも家族のもとを離れて出家された。家族と一緒にいて、ほんとうに修行ができるかということを考えるべきでしょう。
 仏教学においては日本には世界のトップレベルの学者がたくさんいましたね。たとえば「比丘戒」の研究をされた平川彰先生などは大学者です。そういう意味では、日本ではもう仏教学は十分でしょう。それよりも、ただひたすら仏心を持って純粋に修行する人たちが集まることが大切です。曹洞宗でも、せめて三十名くらい、そう人たちに出てきてほしいですね。それによって仏教は変わります。
 これからの仏教は国際仏教になって行きます。海を超えて世界の仏教がひとつになっていく。道元禅師がおっしゃったことを、われわれ一人一人が、真剣に受け止めるべきときが来ていると思います。

国際テロ時代の仏教の役割

荒木 昨年九月十一日のアメリカでの同時多発テロによって、世界中が不安に陥りました。このような時代に、仏教はどのように対処すべきでしょうか。

菩成 テロが起きたとき、世界中の識者はただ沈黙していましたね。ただ、ダライ・ラマだけが、リチャード・ギアとの対談でコメントを出しました。「憎しみは憎しみによっては解決しない。私たちは慈悲の心を持たなければならない」と。仏教では、たくさんのことばより、ひとことのことばで感動を与える。それで十分です。お釈迦さまの教えは、自分が納得してもしなくても真理ですから。慈悲心を持って対応する。それが仏教が世界に伝えるべき一番たいせつなことです。

(平成十四年七月十九日 韓国松廣寺にて)

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