仏前結婚式




 かりそめならぬ天地の
   正しき人の道なれば
 尊さ胸に溢れつつ
    今日を迎える喜びよ

仏のおしえ父母の
   めぐみに深くつつまれて
 はぐくみ来にし玉の身を
    ささげまつらん真心に

二人のいのち結ばれて
   一つに燃える幸福を
 希望の明日にかぎしつつ
    強くやさしく生きてゆく


 これは結婚讃歌の歌詞の全文です。この世に生を享け、尊い仏縁によって結ばれたカップルの結婚式が十一月三十日、熊本県天草郡松島町のホテル竜宮で仏式にて行われました。
 新郎は、同町内の田崎春彦さん(三十六)と新婦山田かおりさん(二十七)。式師は、同町地蔵院住職荒木正昭師(四十二)。
 仏前結婚式と言えば、寺の本堂で行われるのが一般的でありますが、その荘厳さは評価されるものの、多くの僧侶の随喜と経費がかかり過ぎるという難点と、一般的に知られていないこともあって仏前結婚式を選ぶカップルはまだまだ少ないようです。
 そんな、現代の風潮に革命的な仏前結婚式を修行しているのが、前述の荒木正昭師です。
 式場の背後はガラス張りで、この日はあいにくの雨で霞んでいましたが、晴天の日には青い空と青い海が広がり緑の松林の島々がくっきりと見渡せる景勝地です。大自然を借景に一仏両祖の掛け軸のかけられた式場が整えてあります。ただ、お香を焚けないという制約がある為にご先祖様のお位牌を安置しての報恩供養は前もって本堂にて修行したそうです。
 親族が椅子席に整列すると司会者の進行で新郎新婦が入場し、式が粛々と進んで行きます。この司会を務めるのが地蔵院寺族、荒木正昭師の妻真希さん。
 住職とその妻が式師と司会を務めるこの結婚式に、住職夫婦のあり方を教えられる思いがします。宗門は、建前としては出家教団でありますが、ほとんどの住職が妻帯している現代に於いては、檀信徒、一般社会に対しては「模範」となるべき夫婦のあり方の手本を示しているようにも感じます。
 式は、予めホテルと荒木氏とが相談して作成してある仏前結婚式の式次第(差定)に従って進められて行きます。ホテルの従業員もテキパキとその役目を果たして、式は、約三十分程で終了。
 式が終って新郎新婦に感想を聞いてみました。
 新郎、春彦さんにとって荒木住職は小・中学時代の先輩でもあり、何事も安心して相談できる相談役でもあるそうです。また、「お寺は葬式をするところと思っていたが今回のことで見方が変わった」と話していました。
 住職と檀信徒のあるべき姿がここにも現れているようです。
 因みに、式師のお礼は決めていないそうで、お礼を頂いてもお祝いとして新郎新婦に上げるから差し引きゼロになるとか。
 荒木正昭師は、平成十二年六月まで二年間、全国曹洞宗青年会の会長、その前の二年間は青少年教化委員長として、仏前結婚式のビデオを制作するなど仏前結婚式を普及する運動を続けてきて、今回で荒木氏自身、九組目の式師となったそうです。
 ホテルの担当者の話によると、このホテルでの挙式は年間約百三十組、その内、チャペルによる式が五割を占め、神前結婚式が四割、人前式、仏前結婚式が一割とまだ少ないが仏式にて挙式したカップルや親族の評価は好評とのこと。この天草地方では、荒木氏以外の寺院でも積極的に仏前結婚式を勧めているということです。
 披露宴では、荒木師の新郎新婦に対する心温まる祝辞も添えられ感激も一入でした。また、先ごろ亡くなられた新郎の父親の遺影が母親の臨席に安置され、仏前結婚式の有り難さを伝えていました。

(取材・藤井慶峰)


仏前結婚式
 美しい心と心の出会い
 それは決して偶然ではなく私たちの思いも及ばない遠い宿世よりきめられていた深い縁にあるものなのです。結婚の話がまとまることを、よく「縁談が整う」といいますが、これは仏教の「縁」というみ教えからきているのです。
 み仏に誓う仏前結婚式はこのような仏教的結婚観つまり――おふたりの出会いは数えきれぬ程の人間の数の中、いろいろな人や物との、関わり合いから結ばれています。これを仏教では「ご縁」があったと申します。理屈なしの不思議なつながりが「ご縁」です。
 すこやかに成長したお二人の若い身心の中には、両親はもちろん遠いご先祖からの美しい心と温かい血を受けついでいることに、改めて思いをいたし、輝かしい新生活に、希望と覚悟をもってみ仏のみ前でかたく誓い合うところに、仏前結婚式の意味があるのです。仏前結婚式はこのように私たち日本人のもっとも自然な心情から生まれたまことに意義深い式でございます。今日を良き日と定め、お釈迦様と天草の大自然の海に誓いを立てる。必ずやみ仏もおふたりの幸せを幾久しく見守られることでしょう。

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